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石川フィルハーモニー交響楽団創立50周年記念特別演奏会:2023ビエンナーレいしかわ秋の芸術祭(2023年9月3日,金沢歌劇座)

2023年9月3日(日)14:00~金沢歌劇座
シュトラウス,J.II/ワルツ「ウィーン気質」
ブラームス/ハイドンの主題による変奏曲, op.56a
ラフマニノフ/交響曲第3番イ短調,op.44
(アンコール)シュトラウス,J.II/ワルツ「美しく青きドナウ」
●演奏
花本康ニ指揮石川フィルハーモニー交響楽団

石川フィルハーモニー交響楽団の創立50周年記念特別演奏会が金沢歌劇座で行われてきたので聴いてきました。石川県立音楽堂でも楽しそうなガラコンサートを行っていたのですが…ラフマニノフの交響曲3番という金沢では滅多に聞けない曲が演奏されるということで,こちらを選択しました。この曲を中心に創立50周年に相応しい充実のサウンドを楽しんできました。

金沢歌劇座に来たのは実は久しぶり

石川フィルができたのは1973年。過去の記録を調べると,私が最初に石川フィルを聞いたのは,1977年(46年前!)に行われた学校向け公演でした。その後,石川県立音楽堂ができた2000年代以降,定期演奏会以外にも,年末年始の「第9,ミサ・ソレムニス」公演,ビエンナーレいしかわ秋の芸術祭などどんどん活動の機会が広がっていますね。というわけで,私にとっては,もっとも「つきあい」の長いオーケストラの一つといえるのが石川フィルです。

今回のプログラムですが,ラフマニノフの交響曲第3番の前に,前半では,今年生誕150年のラフマニノフの生年「1873年」に作曲された,J.シュトラウス「ウィーン気質」,ブラームスの「ハイドンの主題による変奏曲」が演奏されました。この年は石川フィル創立年の「1973年」の100年前ということで,とても良く考えられた選曲となっていました。

「1873年」の2曲とも,常任指揮者の花本康二さんのもと,丁寧でクリアな音楽を聴かせてくれました。最初に演奏された「ウィーン気質」は,オーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)の演奏では聴いたことはありますが,大編成のたっぷりとした響きで聴くのは今回が初めてでした。それに加え,コンサートマスターをはじめとする弦楽器のトップ奏者たちによる室内楽的雰囲気,くっきりと聞こえてくる管楽器の響き(金沢歌劇座の2階席は管楽器の音がよく聞こえますね)…と多彩なサウンドを楽しむことができました。

2曲目の「ハイドン変奏曲」では,まず最初の「主題」の部分から,よく溶け合った音がすっきりと響き,美しかったですね。第1変奏以降,堂々としたテンポ設定で,安心感のある響きに加え,管楽器を中心とした「個人技」も楽しむことができました。ちなみにこの日は元OEKのファゴット奏者,柳浦慎史さんがコントラ・ファゴットで参加されていました。第1変奏の最初から低音が非常に充実しているなと思いました。

最後の変奏は特に素晴らしかったと思いました。演奏前のプレトークで指揮者の花本さんが説明されていたとおり,チェロやコントラバスの低弦の上で木管楽器を中心としたいろいろな楽器が多彩に動きまわる感じが鮮やかで素晴らしかったですね。じっくりとオーケストラの音を味わえる充実のフィナーレとなっていました。

後半の前に撮影(あまり違いはありませんが)

後半のラフマニノフの交響曲第3番は,彼の渡米後の作品ということで,最終楽章などは「パガニーニの主題による狂詩曲」に通じる開放的な明るさがありました。交響曲第2番に比べると演奏頻度は少ないのですが,もっと演奏されてもよく曲だなぁとこの日の演奏を聴きながら思いました。

第1楽章はホルンとチェロの重奏で開始。この音の溶け合い方が素晴らしかったですね。一つの楽器の音のように感じました。それに続く,ビシッとしまった心地よい重みのある全奏も印象的でした。その後はラフマニノフらしく,ロマンティックでメランコリックな部分も出てきますが,晩年にアメリカで作曲した曲ということで,「故郷を懐かしむノスタルジー」のようなものも漂っていると思いました。展開部などでは金管楽器や打楽器による盛り上げも鮮やか。再現部になると,前半とは違った響きが出てきます。特に弦楽器のフラジオレットの合奏には独特の美しさがあるなと思いました。

第2楽章の最初は,ホルンとハープの組み合わせで開始。こちらもとても味わい深い雰囲気が出ていました。ちょっとオリエンタルな気分が漂う緩徐楽章で弦楽器の澄んだ響きに加え,チェレスタなども加わり,不思議な色彩感が漂っていました。いろいろな木管楽器の精緻な組み合わせも面白いなと思いました。

第2楽章の中間部は対照的にスケルツォ楽章的な部分になります。この交響曲は3楽章構成なので,このスケルツォを中心に全曲もシンメトリカルな形になっているとも言えます。この部分はとても生き生きとした音楽。ここでも音の使い方が面白いなぁと思いました。その後,第2楽章の前半の気分に戻ります。楽章の最後,クラリネットだけ残って静かに終わる感じが味わい深いなと思いました。

第3楽章は,推進力のあるアメリカンな気分もある楽章でした。弦楽器にフーガのような部分が出てきたり,ラフマニノフの好きな「怒りの日」のフレーズが出てきたり,それに加え,お得意の甘いメロディも要所で出てきて,聞きどころ満載でした。不穏な気分になったかと思うと,明るく盛り上がったり…とてもラプソディックな音楽が続きました。曲の最後は,キラキラとした感じで明るく締めてくれました。

アンコールでは,最初に演奏された「ウィーン気質」に対応するように,J.シュトラウスII作曲のおなじみ「美しく青きドナウ」が演奏されました。しっかりと繰り返しを行ってじっくりと演奏していたのでアンコール曲にしてはやや長めでしたが,実はこの曲を大編成の実演で聴いたことはほとんどなかったので,「良いなぁと思って」聞いていました。心地よい音の流れに浸ることのできる演奏でした。

過去,花本さんと石川フィルの組み合わせで,マーラーの交響曲第9番とか挑戦的なプログラムを色々と聞いてきましたが,今後も色々なレパートリーに挑戦をしていって欲しいなと思います。次の50年に向けて,今後の活動に期待をしています。

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